落魄の月

よしなしごと

『恋煩い』砂原糖子

 再開発事業の会社の社長である主人公は、事業の進行を妨げる一軒のぼろ家にいらつきを感じていた。「空き部屋全部借り上げて柄の悪い連中を送り込んで他の住人をおいだせ」というぎりぎりの戦法をくりだそうとするも、借りられた部屋は一部屋だけ。酔っ払って転がり混んだその部屋で夜中に目を覚ますと壁から光がもれていて、覗いてみると隣の部屋で男が自慰をしていた。そんな出会い。

 

 そんな出会い?

 

 昔付き合ってた委員長とにてるなとか男日照りだからあんなんでときめくとか色々言い訳していたが、それなりにつきあっていくうちに好きになってしまう社長。しかしもとはといえば立ち退きを迫っていた身であり、その事がばれてしまう。

 

 社長のキャラクターが結構かわいくて、口が悪いし自分は性格が悪いと自認していながら、わりと隙があって人恋しくて優しい。台詞ひとつっとってみたって「再開発だってじじばばが歩きやすくする工夫がある」、といったふうに「じじばば」なんていいながら結局「じじばば」の為だと白状してしまったり。社長の秘書が「何でも知っておきたいんです」というとっても有能なひとなのだが、別の視点では秘書もわりと社長のことかわいいとおもってるんだなっていうエピソードがあったり。嫌いな重役との会食の後の送迎を、仕事外だから断ってもいいけど断ると「拗ねる」って先読みしてたりね。

 センセーショナルな出だしと、主人公のキャラがとても好きな一作。