落魄の月

よしなしごと

『魔界都市〈新宿〉夜叉姫伝』全8巻 菊地秀行

 〈新宿〉にやってきた吸血鬼のお姫様ご一行様と魔界都市総力戦。せつらの糸でも切れない(まぁ「私」なら切れる)お姫様はせつらにご執心で、「絶望のうちに跪かせてやる!」と大変な殺戮模様でした。めふぃーは吸血鬼の仲間入りして、戸山の跡継ぎ・夜香もお姫様に魅了され、孤軍奮闘のせつらでした。

 お姫様はせつらを絶望に落とすために大変奮闘するんだが、戦力がすさまじいといっても「物理でたたく」というわかりやすさ。そして軍門に降ったかにみえためふぃーのお姫様に対する復讐が、絶好のタイミングで炸裂し、恋する女を最高の幸せから地獄の底へたたき込む一打でした。さすがせつらからも「あいつなにかんがえてるんだか」といわれる魔界医師です。最終局面でめふぃーが味方(でもないか私怨だな)になり、からくも勝利を収めた魔界都市の申し子・せつらでした。

 ちゃんと順番に読んでないので、夜香の着任とかトンブ登場とかこの巻からだったのかと知りました。夜香が妙にめふぃーにおよび腰なのはこの一件からなのだろうか。

 

『びんぼう草の君』小鳥屋りと子 

 高校時代に好きだった相手と気まずいわかれをし、大人になって思わぬ場所で再会するという、BL鉄板の出だし。かつていい家の息子だった主人公は父の死によって借金を背負いそれを返済する日々で、一方貧しい家庭に育っていた相手は遺産が転がり込み研究員として生活している。立場が入れ替わり自分を恥じる主人公に対して、かつてと変わらず接してくる相手にまた恋をしてしまう、というこれもまた鉄板ネタ。

 ていねいにかかれていて、キャラの生い立ちや心情といった部分がよく伝わってくる。繊細なBL作品が好きなひとにはおすすめしたい。劇的な展開などはないが、じっくりと楽しむにはぴったり。

『魔王伝 魔界都市〈新宿〉シリーズ』菊地秀行

 ちまちまと魔界都市シリーズを。この作品では秋せつらの出生が明らかになっていて、せつらの存在をちょっとだけ垣間見える。

 せつらと同じ技をつかい、作品が進むについれてパワーアップしていく敵に対してせつらはどう対抗するかというのが見所なんだけど、いつもながらめふぃーがややこしい立ち居振る舞いをしていて、敵の兵器を改造してみたり(対せつら用)と不確定要素として大活躍。「あいつは何を考えているのかわからない」、毎回なので仕方ないよね。

 めふぃーはせつらの複製をつくって一緒に散歩をしているとか、せんべい屋の年収が3000万とか、ちょとしたネタも拾える話。

『怪奇編集部『トワイライト』』瀬川貴次 

 新しいレーベル・オレンジ文庫でさえオカルトものを書く瀬川貴次の業とはと考えてしまうけれど、やっぱり長年やってきてうまいとおもわされるものだった。

 主人公は神社の息子。怪異現象によく逢うことは、同じ大学に進学した幼なじみもしるところ。彼が大学の先輩から紹介されたのは、彼の鬼門でもあるオカルト専門誌。心霊写真・UMA・開運グッズと手広く扱う雑誌の取材の先々で、であうオカルトの数々をかく連作小説。

 怪奇現象がやたらと現実的なのが他のオカルト系ライト文芸とはちょっと違うところ。現実的というか身体的というか。主人公を死んだ恋人と思い込んだ死霊は、主人公の乗るスワンボードに同乗しようと一緒に乗っていた友人に足蹴にされて阻止され、死者の祭りに招かれるという現象が経文の書かれた開運グッズの下着を左前に着たのが原因だったり。

 やっぱりオカルトがうまいんだなーとしみじみと感心しました。

『真夜中のオカルト公務員』鈴木麻純

 ノベライズ版らしいことを知らずに買ってしまったのだけれど、人気シリーズらしくアニメ化もするらしい。

 主人公は新宿区の公務員として超常現象やら魑魅魍魎やらの対策をする課に就職することになる。すべてのオカルト的存在を「アナザー」とし、真夜中の騒音問題の原因がアナザー同士の領土争いとして新宿御苑を封鎖するのが初仕事。ところが主人公はアナザーの言っていることがわかる特殊な耳を持っていることがわかり……といったところ。

 オカルト存在をひとくくりを「アナザー」とくくってしまう乱雑さでもって、天使と天狗が恋愛関係に陥ったり、安倍晴明と南米の神が友達だったり、出典も文化もひっぺがして登場する。そこらへんをかろやかに無視できるのであれば、もしかしたらおもしろいのかもしれない。

 僕には無理だ。

 

 そういえば『英国幻視の少年たち』では超常現象や超自然的存在を「ファンタズニック」と総称してたな。