落魄の月

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『囮 探偵助手は忙しい』高岡ミズミ

 ものすっっっごくひさしぶりに高岡ミズミ。

 

 主人公はイラストレーターを生業にしているが鳴かず飛ばず。独立したいものの叔母の家に居候し、両親には心配をかける日々。そんな主人公に叔母が紹介してきたのが、とある探偵社での助手の仕事。呉服屋の次男坊という裕福な美青年がやっている探偵業に流されるまま付き合うことになった主人公は、「オカルト専門」だという仕事に「化け物に好かれやすい体質」をかわれて囮役として体を張ることになる。

 

 気むずかしくて人付き合いがない探偵となにくれと他人に好感をもたれる平凡な助手というある種の様式美。囮になる助手に「かならず守る」と誓う探偵、といったあたりもそれ。オカルト専門探偵という部分に関してストーリーは多大な疑問を残しつつ、ホワイトハートお家芸岡野麻里安的なBLぎりぎり路線を狙うのかとおもったものの、がっつりセックスしていてちょっと笑ってしまった。あてがうだけ、先っぽだけ、とかいいつつ全部突っ込むのは笑いどころのなにものでもない。

『それは運命の恋だから』月村奎

 小説Dear+購読してるので、そういえば雑誌掲載で読んだなと思い返しつつ。

 

 ゲイであることを隠し普段はクールな独身主義を演じる主人公は、その実ロマンス小説の愛読者でありいつかは運命的な恋をしてみたいとおもっている。しかし現実にそんなロマンスは望めず、諦めて現実的な同性愛者限定のお見合いパーティーに出席する。そこで一目で惚れた好みの男性とであうものの、同じ席についての会話は終始無言。他の相手もあまりいいともおもえなかったのだが、最後の投票でその相手とカップルが成立する。一方、主人公が一目惚れした相手は従弟のつきあいで参加しただけでのノンケであった。パーティーの後、事情を説明しようと主人公を喫茶店に誘うが、恋愛に関して自信の無い主人公がカップル成立に感涙してしまい説明する機会を逸してしまう。

 

 月村奎の主人公としは頻出する、容姿はすごくいいのに恋愛下手かあるいはトラウマがあるタイプ。恋愛事に関する自己評価は常にひくく、相手の好意を素直にうけとれず、終始びくつく。『恋する臆病者』とか『CHERRY』あたりがそんな感じ。この主人公もご多分に漏れず、相手がもとノンケだと知り話も聞かずに暴走する。『CHERRY』の主人公は大学生だし、まぁなんか虚勢を張るのもかわいいかなという気分もあるが、この主人公はわりといい大人だし、相手の愛情は疑いようもなくかけられているし、めんどくさいなという印象。

 

 従弟のほうがよほどかわいげがあるんじゃないかとおもいました。書き下ろしが従弟の話。

『恋煩い』砂原糖子

 再開発事業の会社の社長である主人公は、事業の進行を妨げる一軒のぼろ家にいらつきを感じていた。「空き部屋全部借り上げて柄の悪い連中を送り込んで他の住人をおいだせ」というぎりぎりの戦法をくりだそうとするも、借りられた部屋は一部屋だけ。酔っ払って転がり混んだその部屋で夜中に目を覚ますと壁から光がもれていて、覗いてみると隣の部屋で男が自慰をしていた。そんな出会い。

 

 そんな出会い?

 

 昔付き合ってた委員長とにてるなとか男日照りだからあんなんでときめくとか色々言い訳していたが、それなりにつきあっていくうちに好きになってしまう社長。しかしもとはといえば立ち退きを迫っていた身であり、その事がばれてしまう。

 

 社長のキャラクターが結構かわいくて、口が悪いし自分は性格が悪いと自認していながら、わりと隙があって人恋しくて優しい。台詞ひとつっとってみたって「再開発だってじじばばが歩きやすくする工夫がある」、といったふうに「じじばば」なんていいながら結局「じじばば」の為だと白状してしまったり。社長の秘書が「何でも知っておきたいんです」というとっても有能なひとなのだが、別の視点では秘書もわりと社長のことかわいいとおもってるんだなっていうエピソードがあったり。嫌いな重役との会食の後の送迎を、仕事外だから断ってもいいけど断ると「拗ねる」って先読みしてたりね。

 センセーショナルな出だしと、主人公のキャラがとても好きな一作。

『魔界都市〈新宿〉夜叉姫伝』全8巻 菊地秀行

 〈新宿〉にやってきた吸血鬼のお姫様ご一行様と魔界都市総力戦。せつらの糸でも切れない(まぁ「私」なら切れる)お姫様はせつらにご執心で、「絶望のうちに跪かせてやる!」と大変な殺戮模様でした。めふぃーは吸血鬼の仲間入りして、戸山の跡継ぎ・夜香もお姫様に魅了され、孤軍奮闘のせつらでした。

 お姫様はせつらを絶望に落とすために大変奮闘するんだが、戦力がすさまじいといっても「物理でたたく」というわかりやすさ。そして軍門に降ったかにみえためふぃーのお姫様に対する復讐が、絶好のタイミングで炸裂し、恋する女を最高の幸せから地獄の底へたたき込む一打でした。さすがせつらからも「あいつなにかんがえてるんだか」といわれる魔界医師です。最終局面でめふぃーが味方(でもないか私怨だな)になり、からくも勝利を収めた魔界都市の申し子・せつらでした。

 ちゃんと順番に読んでないので、夜香の着任とかトンブ登場とかこの巻からだったのかと知りました。夜香が妙にめふぃーにおよび腰なのはこの一件からなのだろうか。

 

『びんぼう草の君』小鳥屋りと子 

 高校時代に好きだった相手と気まずいわかれをし、大人になって思わぬ場所で再会するという、BL鉄板の出だし。かつていい家の息子だった主人公は父の死によって借金を背負いそれを返済する日々で、一方貧しい家庭に育っていた相手は遺産が転がり込み研究員として生活している。立場が入れ替わり自分を恥じる主人公に対して、かつてと変わらず接してくる相手にまた恋をしてしまう、というこれもまた鉄板ネタ。

 ていねいにかかれていて、キャラの生い立ちや心情といった部分がよく伝わってくる。繊細なBL作品が好きなひとにはおすすめしたい。劇的な展開などはないが、じっくりと楽しむにはぴったり。

『魔王伝 魔界都市〈新宿〉シリーズ』菊地秀行

 ちまちまと魔界都市シリーズを。この作品では秋せつらの出生が明らかになっていて、せつらの存在をちょっとだけ垣間見える。

 せつらと同じ技をつかい、作品が進むについれてパワーアップしていく敵に対してせつらはどう対抗するかというのが見所なんだけど、いつもながらめふぃーがややこしい立ち居振る舞いをしていて、敵の兵器を改造してみたり(対せつら用)と不確定要素として大活躍。「あいつは何を考えているのかわからない」、毎回なので仕方ないよね。

 めふぃーはせつらの複製をつくって一緒に散歩をしているとか、せんべい屋の年収が3000万とか、ちょとしたネタも拾える話。

『怪奇編集部『トワイライト』』瀬川貴次 

 新しいレーベル・オレンジ文庫でさえオカルトものを書く瀬川貴次の業とはと考えてしまうけれど、やっぱり長年やってきてうまいとおもわされるものだった。

 主人公は神社の息子。怪異現象によく逢うことは、同じ大学に進学した幼なじみもしるところ。彼が大学の先輩から紹介されたのは、彼の鬼門でもあるオカルト専門誌。心霊写真・UMA・開運グッズと手広く扱う雑誌の取材の先々で、であうオカルトの数々をかく連作小説。

 怪奇現象がやたらと現実的なのが他のオカルト系ライト文芸とはちょっと違うところ。現実的というか身体的というか。主人公を死んだ恋人と思い込んだ死霊は、主人公の乗るスワンボードに同乗しようと一緒に乗っていた友人に足蹴にされて阻止され、死者の祭りに招かれるという現象が経文の書かれた開運グッズの下着を左前に着たのが原因だったり。

 やっぱりオカルトがうまいんだなーとしみじみと感心しました。